◯ 依存症に公認心理師を活用できるの?

公認心理師制度が創設されたことで、ギャンブル団体を含む様々な方面から、公認心理師の活躍を期待する声が出ています。

公認心理師にはギャンブル依存を食い止めて欲しい、治して欲しい。

また、公認心理師推進ネットワークVoice には国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部 部長/自殺予防総合対策センター 副センター長
松本俊彦医師が「私は臨床心理士に期待している」という文章で、「薬物依存臨床は『おいしい』ぞ!」というタイトルで心理職への依存症治療への期待が語られています。

そこで僕が思うのは「ちょっと待って、公認心理師という制度ができたということは心理職を国家資格にしたわけで依存症の専門トレーニングが行われたわけではない。どうしてそんな話になるの?」という素朴な疑問です。

松本先生の文は面白くて好きなのですが、医師はドリフターズ診察しかできない、「眠れているか?死にたくないか?宿題やれよ、また来週!」だから心理に本格的な依存臨床を任せたい、依存治療研究をすれば立派な論文も書ける、それはその通りだと思うのです。

それでは予算は?心理職が依存症治療にマトリックス・モデル、動機付けが低い依存症患者への動機付け面接を行う、SMARPPやCRAFT(Community Reinforcement and Family Training)を行うことが可能なのはそれだけの先進的治療を行うことが可能な教育研究機関で研修を受けなければ無理ですし、依存症対策の臨床家の心理職をどんどん留学させてくれるの?国内でもいいから公費負担で学習できるの?というとそんなことはないわけです。

公認心理師制度が発足したからといって、松本先生が期待しているように保険点数に心理職の関与が算定されるかどうかはわからないことです。

依存症専門の病院も多いですが、セルフヘルプグループ、自助団体からの脱落者も多いです。

依存症も細分化されていて、物質嗜癖addictionのほか行動依存として買い物やゲーム依存もあって、依存症治療だけでもとても手は回り切らないでしょう。

「国からこれ以上出す金はない、公認心理師制度ができたから関係団体は心理職からカネを取る、国民は期待しているからそれを受けて自腹で学習して治療に当たれ。」

公認心理師が創設されたことで国民の期待が高まっているという雰囲気はクライエントさんを通じても確かに肌に感じます。

クライエントさんは治りたい、治したい、家族は病識がない患者さんが死ぬ前になんとか直して欲しい。

そういった期待は臨床の現場にいる心理職は痛いほどわかるでしょう。

エビデンス・ベースド・モデルでない精神分析で箱庭でも患者さんはどんどん良くなっていますし、その検証も行われつつあります。

僕も心理の端くれとして、全く違った技法で過食も物質依存にも効果的なアプローチや研究ができるだろうという自信はありますが、それはなんらかの時間的な余裕やチャンスが与えられれば、の話です。

CBT認知行動療法モデル研究ならそれをやってみる、RCT(無作為抽出試験)で効果検証をやる、他の方法もやってみる、研究の予算も時間も十分に取った上で心理職に力をつけさせないと難しい課題を目の前に突きつけられています。

栄養は与えないけど全力疾走してねと言われるだけで、公認心理師関係団体がそれじゃやりましょうと安請け合いしないことを望むばかりです。

この制度はあまりにもぐらつきがまだ激しい。

少しの刺激がシステムの根幹を揺るがすようなことが、あってはならないと考えています。


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