生活保護行政は公認心理師の新活動領域か?
生活保護に関する文書や論文などを読んでいると「支援」「自立」という言葉がよく使われています。
生活保護は被支援者が就労できるまでの「つなぎ」として支給する、だからやがて自立を促していくための一時的支援だという考え方があります。
生活保護行政については多くの報道がされていて、生活保護者支援団体があって、そして生活保護ビジネスがあり、不正受給に関するニュースが報道されて、と常に世論の注目の的になっています。
ネット上では受給者に対する「怠けてる」という批判が多くされているのを見かけます。
連載中の「ケンカツ」(『健康で文化的な最低限度の生活』:憲法25条条文を引用したタイトル)は柏木ハルコが現在連載中のマンガで、要支援者のために駆けずり回る生活保護ケースワーカーの一生懸命な姿が描かれています。
ただし、このように要支援者のために真摯に時間をかけて対応してくれるケースワーカーは実際には皆無です。
どのケースワーカーも1人100件以上のケースを抱えています。
そして本来的には社会福祉士の業務と思われるのですが、慢性的な人手不足です。
とても簡単に取得しやすい3科目主事(法学、経済学、福祉、医学などなんでもいいので短大、大学で教える関係ありそうな3科目)履修資格者が講習を受けるなどとても簡単な手続きで生活保護ケースワーカーになることができます。
「生活保護ケースワーカー」という言葉で検索すればわかるのですが、生保ケースワーカーは全国的津々浦々で募集されていて、時給性や契約社員と彼らも不安定な待遇が多いです。
さて、公認心理師法施行規則第5条には公認心理師の活動領域として認められている26の施設が規定されていますが、第8号には「社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所又は市町村社会福祉協議会」があります。
社会福祉事務所が生活保護事務を管轄しているわけですが、社会福祉士だけでなくここで臨床心理士が働いている場合もあります。
公認心理師試験では社会福祉事務所で働いていた現任者も合格していたのではないでしょうか。
社会福祉法や生活保護法が今後どう変わっていくかはわかりません。
それでも公認心理師の職務として社会福祉事務所で働く心理師は増えていくことは予想されます。
社会福祉事務所での保護業務は生活保護受給申請者の保護申請を審査することですが、多くの事務所では申請者を「相談に来たんですね、申請ではないんですね」と「水際作戦」で申請させないようにして追い返す行為が行われています。
これは厚生労働省では好ましくない対応として、通達で適正な対応をするよう通知されていますが、現場ルールでは相変わらず申請者を追い返すような対応が行われています。
心理職なら生活困窮者のカウンセリングをしたこともあると思います。
有料のカウンセリング事務所でもかなり生活保護受給者に手厚く、無料にしたり料金面の負担を減らす工夫をしています。
生活保護申請者から聞く話は悲惨なものが多く「帰れ!」「税金泥棒!」と罵倒される、追い返される、長時間無視されるといった対応が社会福祉士や精神保健福祉士、臨床心理士を含む職員によって行われているわけです。
生活保護受給者が生活に困窮、家電を買えない、クーラーが買えなくて熱中死したなどの事案が報道されています。
受給者も禁煙のための治療や自動車教習所に通えることができます。
ただし、社会福祉事務所は聞いたら教えるけれども聞かれなければ教えないという対応です。
医師から就労不能の診断書が出ていても働くように促されます。
果たしてこれは心理職の仕事なのか?
一方で申請者を冷たく扱い、また別機関に行ったら心理職から同情されたら当事者は混乱するでしょう。
保護申請の現場では福祉職が当事者に甘くなりがちだということで無資格者を優先的に窓口配置することも行われています。
申請者と窓口担当者の軋轢も当然多く、かなりの担当者がバーンアウトして退職してしまうので非常勤職員が多いのでしょう。
こういった厳しい職場で心理職が保護業務にかかわっていて、申請者に対して適正な支援を行っていけばいいのですが、文書に示された保護業務体験談を読む限り、独りよがりの「支援」に終始していて、その正当性には疑問があります。
さて、今後公認心理師が生活保護業務にかかわることは上記の理由から信頼性が揺らぐのではないかという根本的な危険性があります。
社会福祉事務所窓口対応は誰もやらなくていいという業務ではないです。
しかしもし心理職がかかわらなければならないのなら、心理職としての社会的信頼性を担保して当事者に相互理解を求めていく、そこに至るまではかなり長い道のりが必要です。
というのは自分で書いていて思うのですが、それは理想論にしか思えません。
今後の見通しがない道程を考えると、双方代理を行うようなこのような業務には公認心理師はかかわってはならないようにも思えるのです。
活動領域を広げていくことだけが公認心理師の信頼性獲得にはならないと考えます。